Track Cruising. "on the floor"レビュー
お待たせいたしました!!#potluckab の有志で作り上げたコンピレーションアルバム、発動🎉🎊
— Track Cruising.🛳🥂 (@trackcruising) 2020年2月15日
その名も"Track Cruising."🛳🥂
部屋でゆったりと聴ける"in the room'"
ハイテンションで踊れる"on the floor"
2つのアルバムから構成されています!
▼こちらからどうぞ▼https://t.co/spocesBSDT pic.twitter.com/fhrX9PpEk7
Potluck Labの有志のメンバーで作られたコンピレーションアルバム。
コンピレーションアルバムの詳細および"in the room"アルバムのレビューについては,こちら。
今回はもう一方の"on the floor"アルバムについてレビューをしていこうと思います。
前回の"in the room"が,部屋でゆっくり落ち着いて聴けるものだったとすれば
今回の"on the floor"は,フロアを揺らし,身体を躍らせるトラックが勢ぞろい
チャンネルはそのまま,ボリュームはいっぱいに上げて,どうぞ!
日曜ルサンチマン / Gakui (feat.とみめい)
アルバムの最初のトラックは,"in the room"アルバムにもソロでトラックを提供しているトラックメイカー2人のコラボ作品
ルサンチマンと言えばニーチェですが「弱い立場の人が強い立場の人に対して持つ恨み・憎しみ・憤りといった感情」という意味でしょうか。
これほど可愛らしいトラックと声で,こんなほとばしるような歌詞が流れてくるとは。
Snail's House meets 銀杏BOYZ?
HoneyComeBear × サンボマスター?
PSYQUIムースの忘れられねえよソース添え?
しかもメインディッシュはとみめい氏のハスキーボイス
フランス料理のような食材の宝石箱であると同時に台湾まぜそばのようなジャンクさものぞかせるような美しくも楽しいそんな曲
しかし,Yunomiさんが"インドア系ならトラックメイカー"と仰っているように,日曜日まるまる予定がないことは我々トラックメイカーにとってデフォルトなのかもしれませんね。
我々ワンルームに引きこもるトラックメイカーは,誰しも洞窟に潜むツァラトゥストラでもあるわけで
永劫回帰の毎日の中で,いつしか超人になることを夢見る獅子なのですね。
家族旅行 / ラグナセナカ
思わず腰を揺らしてしまうようなドラムに,跳ねるようなシンセ・バッキング
そんな軽快なトラックなんですけど,そこに乗る歌詞はぶっ飛んでる
「裸のランチ」か「バンド・オブ・ザ・ナイト」?
断片化された文節は思わぬ言葉とつながり
詩の全体を構成してゆく。
さながら音楽九龍城
けど決して聴く者を置いてゆかない
なぜならそこには必ず,聴く者に共感できる一片があるから。
"シーチキンはチキンじゃない。リゾートホテルの合言葉
金歯の主催者 水着パーティー 僕のモラルは大混乱
算数ドリルはキャンプファイヤー 裁縫セットはババアにやったぞ
息子宿題そっちのけ 「息子は宿題そっちのけ」"
僕がビビッときた一節は
"CCレモンのペットボトルにお茶を入れたら家庭的"
わかる。
普段は気づかないレモンのにおいがお茶の渋みと一緒に鼻腔をくすぐるんだよね,アレ。
関係ないけど,むかし香川でうどんにかけるつゆを100均とかに売ってるシャンプーのボトルに入れてるうどん屋があってさ
何年かぶりにこの前行ったら全然まだシャンプーボトル使ってて思わず笑っちゃったよね。
come little closer / maybe
思わず体を揺らしてしまう2-Step Garage
細かい芸がビートのそこかしこに潜んでいて,聴く者を絶えず突き動かす。
"Come little closer..."
徐々に身体を侵食してゆくかのようなビート
否,決してビートはこちらに添い遂げることはない。ビートはいつも中立である。
ビートに対し,親近感を感じてゆくのは,こちらの心がビートへと導かれてゆくから。
ビートは絶えず人を打ち負かす(beat)が,そうなればそうなるほど人は鼓動を早める(upbeat)
ビートはそう,常に聴く者の心をつかんで離さない麻薬
そう,我々はまだビートの路上,ビート・ジェネレーションなのだから。
CosmicFlyer / coMe+to
Pink Floydの名盤「The Dark Side of the Moon」の邦題が「狂気」であるように,月の光は人を惑わし狂わせるものらしいですね。
きらめくシンバル,柔らかなシンセの響く中
太陽の光ではなく月の明かりに主人公は光を感じ,その奥の宇宙へと向かおうとする。
月の光に誘われていった主人公はいったいどこへと向かうのでしょうか。
"Always Keep The Faith"
しかし,それは決して太陽に照らされた世界が示す誠実さではない。
"もし世界の常識が僕らを苦しめていても"
"恐れずに前へ!"
月へ向かおうとし,空へはばたいた主人公は,重力の虹を感じずにいられたのか,それとも
"誰も知らない物ばかりがきらめくこの世界を 今 伝える使命を"
余談ですが,僕も月の終わりには預金残高をみて狂気に襲われますよ。
あと月曜日とかさ。
ビタミンが足りない! / ほーりーA
知育音楽やん。
NHKさん,どうぞ風邪や病気が騒がれているこの時期,どうぞお子様に聞かせていたければと思います。
子どもの栄養リテラシーを高めるとともに,ラップ教育やテクノ学習にもなりますよ。
クラブで流せば,体が栄養を求めてビートと共に踊りだしますよ。同時にクラブにサラダバーも設置させれば相乗効果です。
どうぞ,最近体調が優れない方は聴いてください。
そういや,先日膝が痛いのが3週間くらい続いて
湿布貼っても,痛み止め飲んでも治らないので
もしかしたらこれ脚気か!?と思い(脚気の原因はビタミンB1の不足らしいですよ)
膝を叩いてたら(脚気の人は膝の下を叩いても足が跳ね上がらないらしい)
治ったんですよね。
人体って意外にブラウン管テレビみたいな治り方するんですね。
すてきな返事 / プリプリエスパー
いや,どえらいトラックですよ,ホンマ。
キラキラしたビンテージサウンドに騙されかけましたが,その底にある哲学は渋い。
なんというか,うまく言えないんですけど,創業100年の老舗和菓子屋がインスタ映えするお菓子を手慰みに作ったっていう感じですよね。余裕を感じる。
曲タイトルも「すてきな返事」なんですけど,曲自体は結構無感情…ではないな,なんだろう,見えにくい感じではあるんですよ。
少なくとも
「ウワ~!六本木の高級ホテル!夜景が奇麗だわぁ~。ディナーもおいしい!ベッドふかふか!シーツパリパリ!アメニティ使い放題!わかりました,私あなたと結婚します!!」
っていう感じの返事じゃない(というかこれ全然素敵な返事じゃないだろ,ふざけるな)
むしろ楽しげな表情と共に匂わせる悲しげな目つき,子どものような無垢さと大人の無機質さを共に感じられるような……。
例えば,そう21歳の若さの姉さん女房,だが箱入り娘で幼な妻でもあり,快活でありながら物静か,明るく振る舞うが物悲しげな態度……まるで「めぞん一刻」の音無響子さんのような……。
あれ?そういえば,プリプリエスパーさん(どんなアーティスト名やねん)のTwitterのアイコンって……。
COOIC / Y.A.
ダメだ!こんなちっぽけなイヤホンじゃなくて,クラブのサウンドシステムの前で全身で感じてえ!!
というくらいにベースの音がめちゃくちゃに刺激的です。音というかもはや圧のように迫ってくる。
そこに差し込まれるサウンド 南国? トロピカル? いや熱帯?
一体ここはどこなんだ?
もはや,完全に空間を創り出している。
音に入り込むのではなく,空間に迷い込んだ
そう錯覚させられてしまうほどの音の世界
気づけば僕は下着姿で膝を叩いて踊ってた……。
kicking jocks / Kicking mimic
手前味噌でえらいすんません。僕のトラックです。
けど特に何も言うことねえんだよな。
おわりで~す。
Plant-01 / HYPER THANKS BOMB
あ~~……
ごめんなさい
すっごい好み。
めちゃくちゃ渋みのあるテクノトラックです。ベースの厚みが気持ちいぃ。
ていうか,これは余談なんですけどアーティスト名も最高過ぎませんか?
HYPER THANKS BOMBって。めっちゃええなあ。
僕も子供できたら「極大感謝」って名前つけよ。
Industrial Technoのような,無機質な感じが最高です。
こんな工場だったら,ぼく,毎日バリ取り(樹脂や金属の加工時に発生する不要な突起を研磨する作業)するわ。
自然と体が揺れる,ビートが肉,骨越えて神経まで焼き付けられる
心からおススメできるテクノトラックです。
余談ですけど,もし僕が川栄李奈と結婚して婿入りしたら
子どもの名前は「川栄極大感謝」だね。
Nervous system / MERCY
は?
何これ
超好き♡
マジで俺が死んだら葬式でこれ流してくれ。
この音が出るガム欲しい。
ずっと噛んでられる。
この音が出る靴ほしい。
一生歩いてられる。
緊急地震速報の音もこれにしたらいい。
ずっと踊ってられる。
それはまずいか。
いやー
素晴らしい
マジで素晴らしい……
HARI PARTY / HINA × KAT
突然ですが昔デッサン中の友達にマシュマロを渡したら,そのマシュマロをデッサンにこすりつけ始めたといったことがありました。
シンプルなベースで始まるこの曲ですが,曲が展開すると同時にどんどん違った風景を見せてくれます。
僕の感想ですが,この初めのベースラインがこの曲全体を支える屋台骨のような気がします。
ただ,この曲すべての雰囲気をこのベースが統一しているというわけではない。
むしろ,この曲はこの初めのベースが周囲のウワモノ・ビートなどによって全く違った表情を表し続けるところにその特徴があるような気がします。
例えてみると
"HO〇SE"
というアルファベットの三文字目の〇に何を入れるか。
選択肢としてはいくつか考えられますが,例えばそこが住宅街であれば〇にはUが入り
"HOUSE"(家)
になるでしょう。
しかし,そこが草原であれば〇にはRが入り
"HORSE"(馬)になる。
同様に,無機質に思えるベースから始まったこの曲ですが,周りに布置されるテクスチャに応じてベースがその表情を次々と変えてゆくというシンプルに見えて計算されつくされた構成,素直に脱帽です。
ところで,僕はどうしてその友人がマシュマロをそんな風に使ったのか理解できてなかったのですが
デッサン中の友だちはマシュマロをどうやら練り消しと勘違いしたらしいです。
Sequence / qoopoo × nagase
曲タイトルが「シーケンス」というように
反復しつつも連続した音の繰り返しが少しずつ繰り返されながら展開してゆく。
僕がここに感じたのは川
つまり川は常に流れ,上流から下流へ,下流から海へ,そして雲となり山に登った水は雨となってまた川を下りだす。
しかし,ヘラクレイトスや鴨長明が記すように,決して川は同じように流れてくるわけじゃない。
『ゆく河の流れは絶えずして,しかももとの水にあらず』
同じフレーズが反復しつつも常に変わったように流れ出す。
しかし,ここまで書いてきてなんだけど,それ自体はたいして不思議なことではない。
それは所謂「ループミュージック」を作っている者にとっては当たり前です。
しかし,この曲は一般的な曲とちがう。
どう伝えればいいのか…ちょっと僕もわからないんですけど……
鴨長明やヘラクレイトスは同じ河を見つめてそれを感じていた。つまり鴨川や四万十川,ガンジス川など同じ河を見つめながら,その流れが同じであり得ないことを語っていた。
けれどこの曲は,同じ水が河を下り,海に流れ,そして雨となり,また違う河を流れてゆく様を表しているように感じるのです。
それほどに,この曲の繰り返しはドラマチックです。
ある時は四万十川のような穏やかに流れれば,またある時は球磨川のような急流を下る。ガンジス川のように霊験に満ちたかと思えば,アマゾン川のように自然の無邪気さを露にする(途中,曲が一時的に止まるのはポロロッカなのでしょうか?)
同じ反復する繰り返しでも,外からそれを観察するのではなく,直接繰り返しを体験する
この曲は,そんなほとばしるようなループミュージックなのです。
Light over coming frustration / Yorda
荒野を至極色に染める闇が,だんだんと東から昇る光で黄蘗色に照らされていくような,そういった風景が思い浮かびます。
"in the room"編のhoshiakariさんの曲をレビューした際に「聞くだけで風景を思い起こさせるような曲は稀有だ」と語りましたが
hoshiasahiさんの曲が風景の中でも静物画のようにある一瞬を切り取ったようなものであったとすれば
Yordaさんのこの曲はドラマという動的な風景を描いたということができるのではないでしょうか。
夜を照らす明かり,失望を希望へと変える光
民族調のメロディと重なって,僕は「アラビアのロレンス」を思い起こしました。
どういった映画ですって? そうですねえ…1962年の映画でオスマン帝国からのアラブ独立闘争を描いた物語で上映時間が207分あります。
長いって? まあ,それは我慢していただければ…けどどうしてもそんな時間が無いという人はどうぞ,こちらの曲を聴いてください。2分ちょっとの時間で素晴らしいドラマが味わえますよ。
というわけで,これでTrack Cruisingのコンピレーションアルバムの全レビューを終えます。
主催のアリムラさんのblogで
"自分がもともと考えていた “Potluck”と、太郎の「ラボラトリー感出したい」というアイディアを安直に結びつけイベント名を Potluck Lab.に決定。「研究してないときの研究室での雑談」の感じがいいよね、という雰囲気を共有。"
という言葉があり
「確かに,今回のコンピは言ってみれば研究室がたわむれに作った変なマシン」
みたいな感じがあった。
さながら未来ガジェット研究所みたいな
しかし,それが『電話レンジ(仮)』のようなとんでもないものに化けることも十分にありうる。
そんなことをコンピを聴きながら,僕は思ってました。
さて
紹介させていただいたすべてのトラックメイカーの方へ,素晴らしい音楽へのお礼と好き勝手に作品を評してしまったお詫びを申し上げます。
聴いてくれた方へ,本当にありがとうございます。どうやらこの企画もまだまだ続くようです。
そしてなんと
03.21 Sat 11:30-
— 京都メトロ (@metro_kyoto) 2020年3月2日
DTMワークショップ「Potluck Lab」での交流をきっかけに集結した次世代トラックメイカー達がそのほとばしるエナジーで作り上げたコンピレーション「Track Cruising.」!のリリースパーティーがメトロに出航!!!総勢22組が出演する異例の大騒ぎに!!
新時代の幕開けを目撃せよ!!! pic.twitter.com/ZBAIDk8IFo
やるぜ。
何と場所は京都メトロ。すげえ~。意味わかんね。おもろ。赤ん坊の時の俺が聞いたらなんて言うだろうな。なんも言えねえか。赤ん坊なんだから。
僕は当日DJで参加します。ノリノリ(古語かよ)のハウスをかけますので,みんな来てください。そして馬鹿な僕を罵ってください……。
最後に,ここまで読んでくださった方々に拙い文章に対する謝罪を。
どうも申し訳ございませんでした。